大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)393号 決定 1994年4月28日

債権者

デュハースト・シェーン・アントニイ

債権者代理人弁護士

丹羽雅雄

松本健男

大川一夫

養父知美

債務者

株式会社アトニー外語学院

右代表者代表取締役

逸見明

債務者代理人弁護士

丸山英敏

平田亨

笠島幹男

主文

一  債権者は、債務者に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、金二六万円及び平成六年四月から本案訴訟の第一審判決の言渡しに至るまで、毎月二五日限り金二六万円宛を仮に支払え。

三  債権者のその余の申立てを却下する。

四  申立費用は債務者の負担とする。

理由

第一申立て

一  債権者は、債務者に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、平成六年一月一六日から本案判決確定に至るまで毎月二五日限り、月額二六万円の割合による金員を仮に支払え。

第二当裁判所の判断

一  以下の事実は当事者間に争いがない。

債務者は、外国語学院を営む株式会社である。債権者は、オーストラリア国籍を有する者で、平成二年九月二〇日、債務者に英会話の講師として一年契約で雇用され、人文知識・国際業務の在留資格を有している。契約は、毎年更新することとなっており、平成五年九月一八日に平成六年九月一九日までの期間についての第四回目の更新が行われた。賃金は、平成五年一〇月から一二月の基本給平均で月二六万円を毎月二五日限り支給されてきた。債務者は、債権者に対し、平成六年一月一一日、同年二月一〇日をもって契約を打ち切る旨のファックスを交付し、解雇通告した。

二  債務者は、債権者を解雇した理由として、債権者には平成五年一一月頃から生徒から「授業に熱心でない」「質問に対してきちんと答えられない」「生徒の向学心に答えていない」「女生徒に誘いをかける」スタッフから「時間にルーズだ」「スタッフに対し横柄な態度をとる」「身だしなみや服装がふさわしくない」とのクレームがあり、勤務態度が不良であったため、口頭の注意を与えたが、債権者の態度やレッスン内容は改まらず、苦情もさらに増える一方であったと主張する。

債務者代表者、新見英明、森田賢一、エレンブラッテン作成の各報告書(<証拠略>)には、債務者主張に副う部分があるが、(証拠略)の各報告書は、クレームを受けた日時、クレームを述べた者の氏名も明らかでない抽象的なものであり、(証拠略)の報告書は、クレームを受けた日時、状況は記載されているものの、クレームを述べた者の氏名はいずれも覚えていないというものであって、(証拠略)の報告書は、情報をもたらした会員を特定しているものの、同会員作成の異なる内容の文書(<証拠略>)が存在し、債権者提出の各疎明資料に照らすと、右各報告書により、本件解雇を正当とするに足りる、債務者主張の、債権者に関する会員及びスタッフからのクレーム、その内容となっている、債権者の不良な勤務態度を認めることはできず、本件解雇は解雇権の濫用にあたるものとして無効というべきであり、債権者は、債務者に対し労働契約上の権利を有する地位を有するものであることが認められる。

三  債権者は、在留期間の更新に際しては、その必要性に関し本件仮処分を申立てた旨の上申書を要求され、提出しており(<証拠略>)、在留資格の関係でも、右地位の保全の必要性もまた認められる。

四  本件疎明資料(<証拠略>)及び審尋の全趣旨によれば、債権者は債務者からの賃金で生活していたところ、解雇後は、友人に一緒に住んでもらって家賃を負担してもらい、異人館で働いたり預金をおろしたりしたりして生活を維持しているが、困窮しており、債務者に対し、二六万円及び平成六年四月以降、本案の第一審判決の言渡しに至るまでの間、月額二六万円宛の金員の仮払を命ずる必要性もまた認められ、これを超える部分については必要性の疎明がない。

五  以上のとおり、本件申立ては、債権者の債務者に対する労働契約上の地位の保全並びに二六万円及び平成六年四月以降、本案の第一審判決の言渡しに至るまでの間、毎月二五日限り、二六万円宛を仮に支払うことを求める限度で理由があるので認容し、その余は理由がないので却下することとし、事案の性質に鑑み、債権者に担保を立てさせないで、主文のとおり決定する。

(裁判官 関美都子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例